BBKY-weeekly

画文業・ばばかよが小4双子と暮らし流れゆく日々のなか、何かしら記していきます。

白杖の人と歩くふしぎ道路

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図書館から「予約していらっしゃる方がお待ちなので、至急返却ください」と、延滞本返却督促の留守電が入っている。やばし。すでに数日返却が遅れなことをお許し願いたい。

急いで返しに行く本は「ふしぎ駄菓子屋 銭天堂」 という人気シリーズの児童書で、読んでみると大人にも面白い。うちは双子とわたしが読んでいるので、図書館1回の貸し出しで3名が読むことになる。

夕飯準備前、トレラン用リュックに「ふしぎ駄菓子屋 銭天堂」2冊をつっこんで自転車で図書館へ向かった。事故一歩手前のスピードが出てしまう急坂を降りて平坦な道路に出ると、左側の歩道を白杖をついて歩くカジュアルなファッションの老人が前方の視界に入った。白杖で道を確かめるカンカンという音が若干高いような気がする。白杖の先にたまたま落ちていた雑草のゴミが絡まる。5メートルくらい進んで雑草が自然取れたのを見守った後、手を貸せばいい話ではないかと気づいた。自転車を押したまま補助することは不可能である。わたしは老人を一旦追い抜いて空き地に自転車をそっと止めて待機した。

「もしお困りでしたら、駅の方向でしたら同じなので補助いかがですか?」歩いているふりで声をかけると、「あぁ、どうもありがとう。じゃお願いできますか」明るい声が返ってきた。

これまで電車内やバスでつかのま手を貸したことはあっても、道で視覚障害の方を道で誘導するのは初めて、と伝える。右手に白杖を持っているため老人が車道側になり、誘導者のわたしが車道側に行った方が良いのでは?と確認すると、このままで大丈夫と言われる。

白杖老人はラルフローレンのポニー刺繍が入った緑のポロシャツにチノパン、頭にはキャップという軽快なスタイルで、「誘導してもらえると早く歩けるからストレスが少ない」というコメントをいただく。

これまで白杖の方に声もかけられなかったことを自供すると、「声をかける方も勇気が要りますよね。その気持ちがわかるから僕は声をかけてくれる人には断らないことにしているんです」と返ってきた。白杖の人の懐の大きさよ! ボランティア酔いする自分をみっともないとか、自意識過剰だったアホなわたし。地面に注意を払いながら猛省す。老人は現在80歳で、もともとは見えていた状態から視覚を失ったため見えていた時の感覚も残っていて不自由なのだと明かしてくれた。目的地に到着するまでの学びは数え切れない。老人のおしゃべりにかすかに西のイントネーションが混じる。わたしが逗子に来てまだ5年で滋賀県育ちだと話すと、老人も逗子の前は大津に住んでいたとのことで奇遇さに盛り上がる。

にしても、逗子は道幅が狭い上に、アスファルトの経年劣化がひどく凸凹やひび割れが多い。道路舗装業で成り上がった中小企業の社長だった父の影響で、わたしは道路にはちとうるさい。

職業柄ならでは父の趣味は自社舗装した道路のドライブで、工事完了したばかりのおニューの道路へよく連れて行かれた。車で走行途中のある地点から〝お父さんが舗装した道路〟ゾーンに入る。タイヤが吸い付くようにスーッと車がすすむ。1メートル手前と走り心地が本当に違うのだ。またある日には別の会社が舗装したばかりの新道へ確認のためのドライブへ行く。興味深いことに、いくら新道でも父の道路には及ばない。

耳を澄ますように車のシート越しの尻を澄ますと、父の舗装した道路は無音に近い。特にベンツ愛好家だった父が一時期浮気したジャガー(車高が低い)の尻と路面の境目のなくなる感覚は、はっきりとすごかった。滋賀県内、空しかないだだっ広い田舎の新道を走る車はほとんどなく、未来の車に乗っているようだ。現場でついた泥を洗車せずのジャガー車内、父とわたしはすっかり無言なのだった。

 

道路にまつわる思い出を30秒ほど走馬灯し、「父が道路舗装業だったので、道が良くないと気になります」と話す。ローソンの近くで老人が知人に声をかけられる。老人は声でIさんだとわかった様子。お二人の立ち話から推測するに茶飲み友達のよう。誘導してもらって市役所へ行く途中だと告げた後、Iさんは「お楽しみだね」と言い、「ね、いいでしょう〜」と返していた。ノーメイクの中年女性も80歳の老人からしたら若い女性ということになるんだろう。こちらこそありがたい。Iさんの名前を覚え、白杖老人の名前を聞いていなかった。名前を尋ねると「Aです」と。Aさん、覚えました。

おしゃべりしていると目的地の逗子市役所へ到着。市役所の少し先に図書館がある。Aさんは図書館にも行ってみたいけれど手前の踏切が怖いと言うので、「踏切、挑戦してみますか?」と勢いでお誘いする。しかし踏切は慣れた人と一緒に行くことにしますのでと辞退された。踏切は白杖の人にとって非常にハードルが高いことも覚えておこう。また会いましょうと市役所玄関でお別れ。

「ふしぎ駄菓子屋 銭天堂」は不思議な話なんだけど、Aさんを誘導する時間もわたしには不思議だった。銭天堂ではふしぎを買うのに50円や100円程度、安いながらもお金を払う。今日のふしぎはいくらだろうか?と金換算の想像をしながら「ふしぎ駄菓子屋 銭天堂」を急いで返却、本は借りずに自転車を止めてある場所まで小走りで戻り家路に着いた。