BBKY-weeekly

画文業・ばばかよが小4双子と暮らし流れゆく日々のなか、何かしら記していきます。

町田氏とこたつとわたし

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昨日までの長袖1枚の陽気から一転、いきなり気温が下がり寒い。そのうえ小雨が降っている。晴れていれば自転車で坂道を急降下し、急げば自宅から逗子駅まで5分のところだが、雨のなか20分ほど歩いて駅へ向かう。

 

9月から河出書房新社のHPで無料公開されている『宇治拾遺物語』「こぶとりじいさん」の町田康による現代語訳「奇怪な鬼に瘤を除去される」を読み、そのくずし方の妙に爆笑、町田康著作を熱心に読み始めた。以来毎日、何を置いても町田康を読む時間をかすめとるほどの、はまりよう。魂の飛び込みよう。

だだはまりにより、これから、NHK文化センター青山教室の一般公開市民講座『人間を考える~表現するこころ~』町田康さんの講座を受講をしにいくのだ。受講料、一般3.888円はネット決済済み。


JR横須賀線3番ホーム上り電車に乗るべきが、隣4番線の下り電車に乗っていた。東逗子駅で急ぎ降りた。普段通りでいたつもりが心躍っていたのか。横須賀線の半分が逗子駅止まりで、東逗子駅には一度しか降りたことがない。次の上りが20分以上来ない、すかすかの運行ダイヤ表を見つめる。東逗子きつい。結局、計40分もロス。このドジで青山ウィンドウする時間はなくなり、青山一丁目駅直結の新青山ビル西館4F・NHK文化センターへわたしも直結する。

 

講座開始15分前、初めて足を運んだNHK文化センターの受付にいくと、既に入室のためできている列に並ぶよう指示される。15分前では遅かった?と反省した瞬間、町田氏がわたしの前を右から左、前室方面へつっきっていかれた。薄いグレーのジャンパー着用の70代男性と、その後ろに並ぶわたしの隙間を通り抜けたのだ。前の70代男性と通り抜けやすい距離を空けていた自分をほめたい。

教室を見渡すと、席は4割埋まり、演壇から向かって真正面と右サイドは既に最前列~4列目あたりまで女性が陣取っている。初老の男性方は、教室の真ん中から後列に着席していた。一つの机にふたつ椅子があり、1人分空いている場所はちらほらあった。相席を申し出ることはせず、録音係の機材近く、空いていた左サイドの最前列に着席した。席にて落ち着いて待つ。演壇の右に2本マイクが設置されており、左には500mlペットボトル相当のガラスの水差しと、ミニタオルのおしぼりが置いてある。で、実はマイクが受講者の視界を遮る。いいんですか?貴女方より後にきたわたしが視界を遮らないガラスの水差しサイドで!? 口角がほんのり上がってしまう。

 

NHK文化センターの人がわたしの目の前で、これから始まる講座の簡単な説明をした。そして町田氏が登場、わたしの机の横を通路として演壇へ。口角がぐーんと上がってしまう。

町田氏の装いは、左胸にヴィヴィアン・ウエストウッドのブランドロゴ地球ワッペンが付いた、くすんだエメラルドグリーンのセーターに、色落ちした穴空きデニム、ヒョウ柄のスニーカー。入室前につっきられたときにもう見たけども。

今回の講義は「表現するこころ」のテーマから、自身の創作について、随筆・小説・古典翻訳、できればほかについても語りたいと町田氏から前置きがあった。いきなり『テースト・オブ・苦虫』から一編の朗読が始まる。迅速なサービス。町田氏は朗読中(少なくとも客がいる前では)、メガネをはずし、裸眼にチェンジ、両手でなく左手だけで本を持つ、ということが知れた。瞬きも惜しんで見ちゃって目がドライになってきたので、目を閉じてみた。自分だけに読んでもらっているような心地。この教室がとても温かい。こたつで、町田康がわたしに朗読を聴かせてくれている。。。ちょっと眠いわ。あかんあかん!

入室時にもらったA4サイズの紙裏に、スケッチをばすることにした。

 

前髪は口もと近くまでの長さのワンレン。でも耳の後ろからサイドは段になっている。顎のラインを描くとまるくなった。まるすぎで描き直し。また描き直し。見たまま描くとまるくなる。鼻筋は高く、話す調子に合わせたまにしわが寄る。鼻先はわりと団子的ボリュームがある。口は…ドラ猫のような口元だ。口角やや下がり気味、ほんの少しのひげあと、唇はやや乾燥しつつもガサガサではない。メガネの奥の目、目の周りのしわがほとんどない。受講は講師を見つめていい場だが、スケッチとなると躊躇なく存分に細部まで凝視することができる。うまく描けてもいないが楽しい。描き描きしているうちに、講義が町田康作品の肝である「非現実的ぶっとび飛躍と、現実のつなぎ方」という、きわめて興味深い内容に突入した。と同時に、髪をかきあげた拍子に町田氏の左横の髪が一部元に戻らず、ゆかいな角度に浮き上がったままになってしまった。視力と聴力のせめぎ合い。

 

この先、こたつでみかんを食べたり、コーヒーを飲みながら、町田氏の話を聴きながらうたた寝する可能性はあるだろうか。町田氏とこたつとわたし。 最前列真正面で目をきらきらさせていた、ショートボブ黒髪地味めのパンツスーツ女性の手が、ずっとお祈りポーズになっていて。この人も町田氏とのこたつを願っているんだったら、かぶってる。うくく。