BBKY-weeekly

画文業・ばばかよが小4双子と暮らし流れゆく日々のなか、何かしら記していきます。

総白髪の老婦人からいただく雪の宿

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今住んでいる地域の自治会は、引っ越ししてきたばかりの家がご近所と顔見知りになる目的で、区の班長をいきなり務める慣習になっている。ちょうど3年前、引っ越し当時に前任班長だったKさんが、うちに班長の順番が回ってきたことを伝えにいらした。

Kさんは、うちから少し坂を上がったところに独居されている当時84歳、現在87歳のご婦人だ。「地域に慣れないうちは大変でしょうから、わたくしで良かったらなんでも聞いてくださいませね」と、寝間着同然の服を普段着にしているわたしには申し訳ないくらいの上品で親切な言葉をかけてくれた。Kさんと数分立ち話をするうち、上品さのなかにどこかふわっとユーモアが臭った。

Kさんはいつお見かけしても総白髪をきちんとセットされ、服装はブラウスにふくらはぎくらいまでの丈のスカートという、ひと昔前の崩れていない先生ファッションで背筋ぴーん。ずいぶん前から今も自宅で子どもに書道教室をされていると伺い、さもありなん。初対面のインスピレーションから、隣近所以外に引っ越しの挨拶まわりのときに、両隣3軒以外では、10軒以上先のKさんにだけ挨拶の品を持っていった。そんなきっかけから、Kさんから子どもにお菓子をいただく、こちらから旅の小さな土産をお返しする、などのじわっとした交流が続いている。

 

つい先日、Kさんにダンナの実家から送られてきたラ・フランスをおすそ分けしにいった。夕方7時半ごろのアポなしピンポン。Kさんは、毎度ながら家なのに家着でない。白いブラウスにベージュのカーディガン、下はスカート姿であった。ただその日は左半分の部分入れ歯をはずしていた。テーブルの上の皿にはずした部分入れ歯が見てないふりしながら見えた。

Kさんの書道教室はお菓子を用意するスタイルだそうで、「最近の小学生はお菓子の好き嫌いがあって難しいのよ~、あ”?」これは既に何度か聞いた話なのだが「あ”?」がおかしい。「って、どうよ?」的な迫り方のときに、Kさんはたぶん無意識に「あ”?」を発語する。この「あ”?」に、他の人がどう注目しているのか気になるところだ。残念ながら共通の知人がいないので確かめようがない。

この日は入れ歯をはずしていたタイミングでリラックスされていたのか、玄関での世間話がはずんだ。「わたくしね、老人ホームに週1回お習字を教えに行ってるんですけれどもね」新しいネタである。「90歳くらいの人がみんな何のおしゃべりもせずじーっとしているのよ、まるで植物みたいに、あ”?」「わたくしも、もうすぐあんなふうになっちゃうのかしらと思うと、あなたはまだ若くていらっしゃるからねぇ〜、あ”?」。高齢者が語る超高齢者問題がスリリングな上に「あ”?」が斬新すぎる。長野で始まった「PPK」=「ピンピンコロリ」という病気にならずにコロリと死のうという運動についての話が続く。わたしは吹き出さないように気をつけながら拝聴する。明日の我が身を心配するKさんは、その後、よく出かける渋谷駅の乗り換えが複雑になった不満を話した。驚異的なかくしゃくぶりを確信する。

「ところで、ママ友とかはいらっしゃるの?」と、Kさんが不意に振ってきた。「あー、なかなかできないです」と、頭をかく雰囲気でへらへら答えると、「日中働いていらっしゃるんだから、難しいわよね」とKさんからフォローが入る。「あ”?」なし。

道教室の生徒が拒否して余ったという雪の宿せんべいと、不二家ホームパイをお土産にいただく。Kさんに元気でいてほしいと強く強く願う。